天才「21世紀最初の巨匠」ポール・トーマス・アンダーソン

ポール・トーマス・アンダーソン

時代がミレニアムから21世紀に移行したころ、ポール・トーマス・アンダーソン監督を「21世紀最初の巨匠」と表現している記事を目にしました。

たしかに、間違いない。

なにしろ1970年生まれのアンダーソン監督は、二十代のうちにアカデミー賞の脚本賞に二度もノミネートされています。

ノミネートこそされませんでしたが監督としての評価も高く、2001年当時31歳のアンダーソン監督は、世界中の若いフィルムメーカーからの憧れと嫉妬を一身に集めていました。

Visuwordも生まれ変わったらPTアンダーソン監督になりたいなぁ。

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フィルモグラフィー

  • 1996:Hard Eight(ハードエイト)
  • 1997:Boogie Nights(ブギーナイツ)
  • 1999:Magnolia(マグノリア)
  • 2002:Punch-Drunk Love(パンチ・ドランク・ラブ)
  • 2007:There Will Be Blood(ゼア・ウィル・ビー・ブラッド)
  • 2012:The Master(ザ・マスター)
  • 2014:Inherent Vice(インヒアレント・ヴァイス)
  • 2017:Phantom Thread(ファントム・スレッド)
  • 2021:Licorice Pizza(リコリス・ピザ)

ポール・トーマス・アンダーソン監督の父は、アーネスト・アンダーソンという有名な司会者だっといいます。

その父親から12歳の時に買ってもらったカメラで撮影をはじめると、ニューヨーク大学を二日で退学してテレビの世界に飛び込みます。

最初の短編「シガレッツ&コーヒー」がサンダンスで評判になると、それをベースに26歳にして「ハードエイト」でデビュー、そして2作目の「ブギーナイツ」はアカデミー賞3部門(自身の脚本賞を含む)でノミネートされます。

さらに3作目の「マグノリア」はベルリン映画祭の金熊賞(作品賞)を獲得し、アカデミー賞でも3部門でノミネート(本人も再び脚本賞)。

このように30歳を迎えるころにはすでに、その作風も相まって無敵の存在であるにもかかわらずここからさらにすごい。

4作目「パンチドランクラブ」でカンヌ映画祭の監督賞を、5作目「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」でベルリン映画祭の銀熊賞(監督賞)、6作目「ザ・マスター」でヴェネツィア映画祭の監督賞を受賞。

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こうして世界三大映画祭の監督賞すべてを制覇した最初の人物となったのが、37歳のとき。

彼の作品を見るたびに、映画を撮るために生まれてきた人っているもんだなあと実感します。

エピソード

デビューまでのアンダーソン監督

アンダーソン監督は自身の幼少期をあまり語りたがらないそうです。

わかっていることは9人兄弟姉妹の7番目で、成績優秀だったこと。アンダーソン監督が起こした会社「グーラルディ」とは、テレビの司会者だった父親が深夜のホラー映画番組のホストとして演じていた役名からきていることから、父子の関係が良好だったことが想像できます。

高校生の時、30分のモキュメンタリーとして「ダーク・ディグラー物語」を作成。このキャラクターを発展させたのがのちの「ブギーナイツ」なのは有名な話です。

ニューヨーク大学映画学科に入学したアンダーソン監督は、2日目ですでに大学を中退。ショウビズにはいりました。

「映画学科はただ強迫的で厳しいだけさ。あんなの時間とお金の無駄だよ」

「ハードエイト」オーディオコメンタリーより
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「シドニー」

デビュー作「ハードエイト」は準備段階からずっと「シドニー」というタイトルが付けられていました。シドニーとはフォリップ・ベイカー・ホールが演じた主人公の名前です。

ところが公開時に映画会社によって改題させられたため、アンダーソン監督はそのことを根に持って、いまだにこの映画を「シドニー」と呼んでいます。

この映画を観たアンダーソン監督の知り合いが、シドニーはお父さんの生写しのようだと語ったそうです。

《「ハードエイト」の詳しい分析はこちらをご覧ください》

フィオナ・アップル

「マグノリア」のエンドロールに”For F A”とあるのは、当時交際していたフィオナ・アップルのこと。この作品は彼女に捧げられています。

アンダーソン監督はフィオナ・アップルのMVを数曲監督しており、なかでも「カラー・オブ・ハート」の主題歌としてビートルズをカバーした「アクロース・ザ・ユニバース」のMVはとくにおすすめです。

<監督公式ブログで確認する>

曲の後半でジュークボックスからレコードを盗んでいくのは、おそらくアンダーソン作品の常連ジョン・C・ライリー・・・。

特徴

アンダーソン監督の特徴はロングテイク、スマッシュパン、クロースアップではないでしょうか。これらはデビュー作から一貫して変わりません。

「シガレッツ&コーヒー」によって参加したサンダンス・ラボという3週間のワークショップで、あらゆる撮影方法を試した結果手に入れた手法だと語っています。

初期の群像劇

初期のアンダーソン監督は「ブギーナイツ」「マグノリア」と群像劇が続いたことで、アルトマン監督の影響を強く受けているといわれていました。

それ以降は群像劇に取り組むこともなかったアンダーソン監督でしたが、久々に「インヒアレント・ヴァイス」で群像劇にカムバックしてくれました。

転機となったゼア・ウィル・ビー・ブラッド

それまでオリジナル脚本で作品を作ってきたアンダーソン監督が、初めて原作をもとに作り上げた作品。作家性をおさえた中にも、間違いのない演出が際立ちます。

群像劇で培った、特定の登場人物に感情移入させない技術を土台にして、強烈なキャラクターを一歩引いた視線で観察するような作品が増えていきます。

おすすめ作品

名作しか作らないアンダーソン監督のフィルモグラフィーの中からおすすめを選ぶなら、群像劇とそうでないものを1本ずつ。

マグノリア

1999年公開の群像劇。アンダーソン映画常連の俳優たちにトム・クルーズまでも取り込んで、家族にまつわる悩みや苦しみを9人の視点から描いた傑作。

エイミー・マンの「ワイズアップ」を突然出演者が歌い継ぐシーンや、絶対に(本当に絶対に)予想不可能なエンディングまで、伝説的な場面が多いことでも知られます。

三時間以上を飽きずに見せられるのは、9人の登場人物たちの全員が同じ瞬間に人生の大きな困難に直面する様子が描かれているから。

随所で流れるエイミー・マンの楽曲も最高です。

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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

「ザ・マスター」と並んで、アンダーソン作品の金字塔だといわれる作品。アンダーソン監督が原作をもとに脚本を書いた初めての作品です。

<出典:監督公式ブログ『Cigarettes & Red Vines』より>

前作「パンチ・ドランク・ラブ」とは打って変わってクラシカルな撮り方をしており、いわゆるアンダーソン的な映像は抑え気味です。

アカデミー作品賞で敗れた「ノーカントリー」とは同じ時期に同じ場所でロケをしていたらしく、お互いの撮影に少なからず影響しあっていたそうです。

とんでもない傑作が戦ったもんです。

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