『アジアが誇る名匠』アン・リー 作品の特徴

アン・リー監督

アン・リー監督はアジア人としてはじめてアカデミー監督賞を受賞した人物です。

しかも二度も。

それなのに有名監督たち、タランティーノやスピルバーグ、マーティン・スコセッシやクリストファー・ノーランにくらべて圧倒的に認知度が低いと思いませんか?

その理由は、アン・リー監督が進化することで変わり続けているからです。

雲のように形を変えてしまうため、他の監督たちにくらべて特徴を言い表すことが難しいのかもしれません。

今回は日本で最も過小評価されている、アン・リー監督をご紹介します。

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フィルモグラフィー

アン・リー監督のフィルモグラフィーを確認しましょう。

  • 1991年:Pushing Hands(推手)
  • 1993年:The Wedding Banquet(ウェディング・バンケット)
  • 1994年:Eat Drink Man Woman(恋人たちの食卓)
  • 1995年:Sense and Sensibility(いつか晴れた日に)
  • 1997年:The Ice Storm(アイス・ストーム)
  • 1999年:Ride with the Devil(楽園をください)
  • 2000年:Crouching Tiger, Hidden Dragon(グリーン・デスティニー)
  • 2003年:Hulk(ハルク)
  • 2005年:Brokeback Mountain(ブロークバック・マウンテン)
  • 2007年:Lust, Caution(ラスト・コーション)
  • 2009年:Taking Woodstock(ウッドストックがやってくる!)
  • 2012年:Life of Pi(ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日)
  • 2016年:Billi Lynn’s Long Halftime Walk(ビリー・リンの永遠の一日)
  • 2019年:Gemini Man(ジェミニマン)

アジア映画から、英国文芸作品、ドキュメンタリー、アクション、人間ドラマ、さらにはマーベルのような大作まで、これほど多種多様な作品を生み出している監督は、アン・リー監督をおいて他にはいないのではないでしょうか。

1954年台湾に生まれたアン・リー監督は、大学を卒業してから渡米して映画を学びました。

初期の3作品は北京語で作られ、『ウエディング・バンケット』はベルリン国際映画祭の金熊賞(作品賞)を受賞、アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされます。

『恋人たちの食卓』でも外国語映画賞にノミネートされると、ついに『いつか晴れた日に』でハリウッドデビュー。

すると『いつか晴れた日に』はアカデミー賞の作品賞を含む7部門にノミネートされます。

そして『ブロークバック・マウンテン』でついに、アジア人としては最初のアカデミー監督賞を受賞します。

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作品ごとに言語や時代、舞台、さらにはジャンルすら変えてしまうアン・リー監督はその後も多彩な映画を生み出し、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』で二度目のアカデミー監督賞を受賞しました。

エピソード

スパイク・リーとの関係

アメリカに渡ったアン・リー監督は、イリノイ大学で演出することの楽しさに触れ、卒業後はニューヨーク大学で映画を学びます。

当時のクラスメートに、あのスパイク・リー監督がいたそうです。

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アン・リー監督はスパイク・リー監督が大学院修了課題として作成し、学生映画のアカデミー賞ともいえる映画祭で大賞を受賞した『ジョーズ・バーバー・ショップ』の作品作りをサポートしました。

6年間の主夫生活

ニューヨーク大学を卒業してからのアン・リー監督は、仕事もないため台湾に帰るつもりでいました。

ところが学生のうちに結婚をして、長男まで授かっていたために帰国の予定を延期。子育てをしながら脚本の執筆に取り掛かります。

そしてそれからなんと6年もの間、主夫をしながら作品を売り込む努力を続けました。

『ハルク』の失敗

順風満帆に見えるアン・リー監督ですが、知る人ぞ知るとんでもないやらかしをしています。

2003年に手がけたマーベルコミック原作の『ハルク』は、興行的にも批評的にも大失敗をします。

このときのことはVisuwordもよく覚えています。期待に胸膨らませて観た映画館で、何が起きているのか分からず困惑した記憶が・・・。

アン・リー監督はこの失敗により鬱(うつ)を患い、一時は監督業を辞めることすら考えたといいます。

そんなときに説得したのが台湾にいるアン・リー監督の父でした。デビュー以来ずっと映画監督に理解をしめしてくれなかった父からの励ましで、次作『ブロークバック・マウンテン』を作り上げることができました。

オスカーを獲得したときにはすでにお父さんは他界しており、壇上から亡き父へ感謝の言葉を述べていたのが印象的です。

特徴

アン・リー監督の作り上げる作品は、まるでスタイルが存在していないように見えます。

それは作品ごとにベストな手法で監督をしているからに他なりません。

大袈裟に技法をひけらかしたり、奇を衒(てら)ったカットを撮りたがる監督もいますが、アン・リー監督の判断基準は単純明快。物語のために適切な撮り方をすることです。

『ライフ・オブ・パイ』を3Dで撮影し、大掛かりなCG技術を駆使しながらも、鑑賞者にはそんなことはいっさい感じさせない巧みな手腕で、二度目のオスカーを獲得したのです。

自然の中の物語

アン・リー監督の作品は、物語の舞台や背景までもが登場人物のように機能していると感じます。『いつか晴れた日に』では19世紀イギリスの自然を、『アイス・ストーム』では70年代半ばの凍りついたニューヨーク郊外を、『ブロークバック・マウンテン』ではワイオミング州の山々を描き出しています。

おすすめ作品

決まったスタイルのないアン・リー監督作品だからこそ、どの作品も唯一無二のすばらしい映画です。似たような作品がありません。

そこでVisuwordがとくに好きな2作品をご紹介します。

『アイス・ストーム』

1973年、コネティカット州で暮らすふたつの家族の物語。思春期をむかえた子供たちと不倫を隠す親たちにおとずれた凍てつく嵐の夜。

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スパイダーマンでブレイクする前のトビー・マグアイア主演。さらにケビン・クライン、シガニー・ウィーバー、ジョアン・アレン、クリスティーナ・リッチ、そしてロード・オブ・ザ・リング前のイライジャ・ウッドという豪華な共演陣です。

親と子、夫と妻のすれ違いから生み出された悲劇を描く。派手さはありませんが、丁寧に作り込まれた秀作です。

詳しくは「《分析》アイス・ストーム」でご確認ください。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』

2012年公開の『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』はファンタジー作品だと思われがちですが、その実サバイバルドラマであり、本質は恐ろしいほどシリアスな物語です。

鑑賞前と後でこれほど印象が変わる作品も珍しいのではないでしょうか。

CG技術を違和感なく物語に取り込み、言葉を交わすことのできない青年とトラを描きながらも、ドラマに溢れた作品になっています。

アン・リー監督が2度目のオスカーを受賞した名作です。

プライムビデオリンク
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を視聴する

参考文献:『The Cinema of Ang Lee: The Other Side of the Screen (Directors’ Cuts) (English Edition) 』Whitney Crothers Dilley (著)

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