映画監督には2つのタイプが存在しています。
現場のムードを重要視して作品制作をおこなうタイプと、自分の求める映像を撮るためには徹底的に戦うタイプ。
前者の代表はクリント・イーストウッド、後者はスタンリー・キューブリックやオーソン・ウェルズの名前がよくあがります。
そうした完璧主義者の系譜を継ぐのが今回紹介するデビッド・フィンチャー監督です。
「オレのことを完全主義者という奴らはよっぽど凡庸か怠け者だ」
町山智浩さんによるインタビューより
すいませんでした。ご本人は完璧主義を認めたがりません・・・。
フィルモグラフィー
- 1992:Alien3(エイリアン3)
- 1995:Seven(セブン)
- 1997:The Game(ゲーム)
- 1999:Fight Club(ファイト・クラブ)
- 2002:Panic Room(パニック・ルーム)
- 2007:Zodiac(ゾディアック)
- 2008:The Curious Case of Benjamin Button(ベンジャミン・バトン 数奇な人生)
- 2010:The Social Network(ソーシャル・ネットワーク)
- 2011:The Girl with the Dragon Tatto(ドラゴン・タトゥーの女)
- 2014:Gone Girl(ゴーン・ガール)
- 2020:Mank(Mank/マンク)
1980年に若干18歳にしてあのILMで働き始め、86年にはアントン・フクアやドミニク・セナなどと映像制作会社「プロパガンダ・フィルム」を設立。
数々のミュージックビデオを手がけたのちに『エイリアン3』の監督に抜擢された時にはまだ20代だった。
2作目の「セブン」で早くも世界中の映画ファンを唸らせ、4作目の「ファイト・クラブ」はいまだにカルト的な人気を誇っている。
「エイリアン3」、「ゲーム」、「パニック・ルーム」がパッとしなかっただけに、フィンチャー監督は一作飛ばしで名作を作ると言われていた時期がありました。そのため制作に5年も費やした「ゾディアック」公開前には、名作確定フラグがたっていた記憶があります。
その後の流れを見ると、実際に「ゾディアック」が名作だったかどうかはさておき、大きな分岐点であったことは間違いないのではないでしょうか。
その証拠に「ベンジャミン・バトン」以降は作品をリリースするたびに賞レースの監督賞候補にあがり、アカデミー賞の監督賞には3度ノミネート。「ソーシャル・ネットワーク」ではゴールデングローブ賞の監督賞を受賞しています。
エピソード
3度目の仕事を望むスタッフはいないといわれるフィンチャー監督。(その意味においてブラッド・ピットってすごい)
「鬼才」の「鬼」って文字通り鬼って意味なのかもしれない。
やらかしたカメラマンに「つぎ同じミスしやがったら、くびにしてやるからな!」って具合に高圧的に怒っている映像を見た記憶があります。映画に注ぐ熱量の差といえばそれまでですが、技術(カメラや照明など)には厳しい人な印象です。
エイリアン3
フィンチャー監督ご本人が処女作の「エイリアン3」を自分の作品と認めていないのは有名な話。
MVあがりの新米だったフィンチャー監督は20世紀フォックスにファイナルカット(最終編集権)を握られて、映画を自分の望むかたちにコントロールすることができなかったそうです。
監督、脚本家が何度も入れ替わる問題作で撮影時にはまだ脚本が完成していなかったとか。
セル用の完全版にすら望んだかたちのバージョンを残すことができず、それ以降の作品選びにおいては影響力の強い出資者が作品に協力的であることを重要視しているらしい。
ソーシャルネットワーク
「ソーシャル・ネットワーク」はパブでの長い会話シーンで始まります。フンチャー監督はあのカットを通しで99テイクも撮ったそうです。
100テイクやらないところが超ドSだと思いませんか?
あのシーンには多くのエキストラが参加していました。100テイクが近づいてみんなザワザワし始めたはず。伝説に立ち会う瞬間です。
ザワザワザワ・・・。
でもやらない。
部活でグラウンドを走らされて、いていよいよ100周目が迫ってきた。孫にも誇れるエピソードの誕生を目前にして・・・はいやめ。そんな感じです。
メイキング映像を見ると、マークを演じていたジェシー・アイゼンバーグが監督に「もう終わり?」「やらないの?」と確認している様子がわかります。
特徴
初期のフィンチャー監督はMV出身監督らしく、映像美と多彩なカット、そして大胆な構図が特徴でした。
「鬼才」と呼ばれていたのも、その唯一無二の映像感覚を評してのことでしょう。
ところが5年をかけて作り上げた『ゾディアック』あたりから、映画の手法にのっとった「理にかなった」作品作りに変わってきたような印象があります。
一作ごとに作品の評価が変わることがなくなったのも、それが理由ではないでしょうか。
近年では現代版「市民ケーン」と監督自ら公言している「ソーシャル・ネットワーク」や、その「市民ケーン」を書き上げた脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツを描いた「Mank/マンク」を作り出すなど、オーソン・ウェルズに傾倒している印象もあります。
おすすめ作品
フィンチャー監督の作品の中からおすすめするのなら、初期の「鬼才」時代からと最近の作品からそれぞれ一本ずつ。
セブン
猟奇殺人を描いたこの作品こそ、事実上のデビュー作ではないでしょうか。
七つの大罪になぞらえて繰り返される殺人事件を追う、二人の刑事の七日間。構成がほとんどホラーだとVisuwordは思っています。
『セブン』の詳しい解説は<解説『セブン』最恐の仕掛けとラストに隠された謎とは?>をご覧ください。
ドラゴン・タトゥーの女
原作はスティーグ・ラーソンによる大ヒット作「ミレニアム」の1作目。この作品のオープニングを劇場で観た時に「これこそ待ち望んでいたフィンチャーだ!」と興奮したのを覚えています。
つくり込まれたサスペンスでありながら、随所に「鬼才」の部分が顔を出す超1級のエンターテイメントです。
もう一度くらいこんな作品を作ってくれないかなあ。