いつの時代も親日家の映画監督は多い。
古くはジョージ・ルーカスやヴィム・ベンダース、最近ではギレルモ・デル・トロやウェス・アンダーソンなどが親日を公言している。そんな親日監督の代表格がタランティーノ監督だ。
大衆受けとはほど遠い映画を作り出すタランティーノ監督が、日本のお茶の間で『タラちゃん』と呼ばれるようになったのは、親日を全面的に押し出した「キル・ビル」が公開されてからだ。
世界の人々は知らない。タランティーノ監督がテレビのコマーシャルで自分のことを「タラちゃんです」と嬉しそうに叫んでいることを。
今回は<時代の寵児>と呼ばれていたクエンティン・タランティーノ監督をご紹介します。
フィルモグラフィー
- 1992:Reservoir Dogs(レザボア・ドッグス)
- 1994:Pulp Fiction(パルプ・フィクション)
- 1997:Jackie Brown(ジャッキー・ブラウン)
- 2003:Kill Bill:Vol.1(キル・ビル vol.1)
- 2004:Kill Bill:Vol.2(キル・ビル vol.2)
- 2007:Death Proof(デスプルーフ in グラインドハウス)
- 2009:Inglourious Basterds(イングロリアス・バスターズ)
- 2012:Django Unchained(ジャンゴ 繋がれざる者)
- 2015:The Hateful Eight(ヘイトフル・エイト)
- 2019:Once Upon a Time in… Hollywood(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)
1993年に「レアボア・ドッグス」が公開された時の印象はその程度のものだった。ところが翌年の5月に2作目の「パルプ・フィクション」がカンヌ映画祭で最高賞にあたるパルムドールを獲得したと聞いて耳を疑った。
だってカンヌ。他の映画祭とは毛色がちがって、ハリウッド作品がパルムドールを獲ることだって珍しいのに、バイオレンスムービーが獲るなんて・・・。実はこのときの審査委員長がクリント・イーストウッド。さすが御大。
ここで一部専門誌はタランティーノとはどこのどいつだと騒ぎ出した。日本公開の10月まで、Visuwordは指折り数えて待ちました。
ところがいざ公開初日に劇場に足を運ぶと映画館は貸し切り。貸し切り<状態>ではなく、本当の<貸し切り>。劇場内に自分ひとりだけだったのは後にも先にもこのときだけ。
その後は徐々に人気に火がついてロングランヒットになり、春のアカデミー賞において作品賞、監督賞を含む7部門でノミネートされた。本当の意味で日本のメディアが<時代の寵児>と騒ぎ出したのはこの段階だった。
「パルプ・フィクション」はタランティーノ監督に脚本賞をもたらし、その後も「ジャンゴ 繋がれざる者」で2度目の脚本賞を受賞。監督賞こそまだ縁のないタランティーノ監督も、いまでは巨匠の風格が・・・やはりない。
以前から公言している10作での引退が本当であれば、いよいよ次作が最後の作品になる!
エピソード
『レザボア・ドッグス』を書き上げる前に、レンタルビデオショップ「ビデオ・アーカイブズ」で働いていたのは有名な話。タランティーノ監督にとって、映画は学校で学ぶものではなかった。
当時の友人ロジャー・エイヴァリーはこう言っている。
「俺たちは映画学校世代に続くビデオストア・ジェネレーションなんだ」
『TARANTINO BY TARANTINO』ロッキング・オン社
脚本を書きながら俳優の勉強も続けていたタランティーノ監督は、のちにトニー・スコット監督によって映画化される『トゥルー・ロマンス』やオリバー・ストーン監督で映画化された『ナチュラル・ボーン・キラーズ』などを書き上げた。
タランティーノ監督がデビュー時に発した熱量はその後10年以上、世界中の映画シーンを漂い続けていたように記憶している。低予算映画でありながら、いわゆる「バイオレンス」や「気の利いた台詞」、または「凝ったプロット」を多くの作品で見かけた。
かくいうVisuwordも、貸切で鑑賞した『パルプ・フィクション』との時間がなければ別の人生を歩んでいたに違いない。
特徴
タランティーノ作品といえば「バイオレンス」、「物語の筋とは無意味な台詞」、そして「凝ったプロット」ではないでしょうか。
好き嫌いが分かれるのも同じ点が理由でしょうか。
タランティーノ映画好きで知られるライムスターの宇多丸さんは、タランティーノ映画のヒップホップ性についてよく語られています。それはタランティーノ監督が過去作を大胆に解釈、そしてアレンジして自らの作品に取り込んでいるだけでなく、そこから新しい価値を創造している点にあります。
ヒップホップに明るくないVisuwordにも、そのことがなんとなくわかります。
映像分析を得意とするVisuwordとしては、タランティーノ監督の最大の特徴は『無駄のない正しいカット割りの中に紛れんだ遊び心』ではないかと感じます。
多くの映画を観て映画作りを学んだタランティーノ監督は、インターネットで世界中の文化と繋がった現代の若者の先駆者かもしれません。
おすすめ作品
タランティーノ作品が好きな人にとっては、どの作品も唯一無二の体験をさせてくれる大切なもの。一方で激しい暴力描写や長い台詞、理解しにくいストーリーが嫌い(苦手)な人もいます。
ファンはすべての作品を観てしまうはずですから、まだタランティーノ作品を観たことのない人のためにおすすめの作品を選びました。
「ジャッキー・ブラウン」
3作目に作られたこの作品は「パルプ・フィクション」で成功を収めたタランティーノ監督が、より大衆向きの作品に挑戦したものです。そのため以下の点においてエントリー向きといえます。
- 暴力描写が抑えられている。
- 物語の筋が複雑すぎない。
ファンからは腰抜けと罵られ、興行的にも振るわなかったため、失敗作といわれることも多い作品ですが、タランティーノ節は随所に健在です。